ILC Supportersスペシャルトークショー「Create the Universe」前篇

先日渋谷ヒカリエで行われたILCSupportersのプロモーションイベントにて、押井守監督、山下了特任教授、竹内宏彰氏及びタレントの藤井香子氏の4名によるトークショーが行われました。

本日はその一部始終をお届けします! ILC、そして科学にかける皆さんの熱い思いが伝わってくる内容となっています。是非ご一読ください!

ILCに寄せる、押井監督の思い

全員 「よろしくお願いしまーす」

山下了特任教授(以下「山下」)「私と押井監督だけで話しているとマニアックな方向に向かいがちなので、今日は自重するようにします(笑)」

藤井香子氏(以下「藤井」)「私はあまり知識もないので、一般の皆さんと同じ視点でお話させていただきます」

竹内宏彰氏(以下「竹内」)「さて、一つ目のトークテーマは「日本でILC事業を実施することによる『国家的意義』と『重要性』」ということなんですが、押井監督からこの点お話ありますでしょうか?」

押井守監督(以下「押井」) 「そもそも自分は高校一年の時は物理で赤点を取って、それ以来物理は嫌いだったし全然勉強もしていなかった。んで、科学技術というものをネタにして、延長線上に作品を作ってきたんです。科学技術が人間にとって、世の中にとってどういうものか半ば直感的に判断して作品に生かしてきたわけですね。その一つが攻殻機動隊。確かインターネットも何もなかった時代に、その技術を絵にして説得するってことをやったわけです。

でも、自分はそれしか社会に出してない。だから、知識という点では普通の人と変わるところはそこまでないんです。でも、だからこそこのプロジェクトに関わろうと思った。一映画監督として活動してきて、そういう活動にはあまり関われなかったから。

…自分が直感的に捉えたILCのイメージが、「多分何の役にも立たない」。だから最初自分は何の役にも立たないってことをアピールするべきだって言ったんです。ほら、少し前に某政治家が「それが何の役に立つんですか」を連発した事件があった。それを聞いてぼくは憤慨してしまった。役に立つことばっかりがすべてじゃないだろって。」

『見えるもの』しか評価しない日本人

押井 「ILCって巨大な設備なんだけど、それが何やってるかって誰の目にも見えない。だって、それって世界だから。で、日本人は基本的に目に見えるものしか尊重しない。評価できない。目に見えない世界、素粒子なんかの人間の感覚で追いきれない世界に関してどうやってイメージを、どれだけのお金と時間をかければ獲得できるのかってことを日本人は全然評価しない。職人の技術みたいな、目に見える、手で触れるものしか評価しない。考えてみれば僕らの作るものも同じようなものなんだけど。」

竹内 「私も三十年近くアニメの仕事をやっているが、それはすごく感じます。今でこそクールジャパンなどと評価されるようになってきたが、昔は「君が創ってる物は子どもをダメにするだけのものじゃないか」とほんと言われました。でも、出来上がった作品を見ると皆さんいいねって言われるんですね。それはやはり自分の見ていないもの、頭の中でイマジネーションするものに対して、日本という国は、あるいは日本人は、見えないもの、触れないもの、これから作るものに関して半信半疑。これは研究の世界ではどうなんでしょうか?世界の中でのILCと日本での扱いのギャップというかについて、先生の方から何かあれば。」

山下 「ヨーロッパに長くいましたが、その時に日本は「科学」と「技術」をいっぺんに「科学技術」といってしまっていると感じますね。ヨーロッパでは、「科学」は文化。最高額の500フランはキュリー夫人。科学とか数学は人間の営みであって、それを追い求める人たちは本質的なものがあるということを感じながら育つ。日本人とかアジア人も根底の部分にはそういうものをもっているはずなのに、なぜか科学って言ったとたんに科学技術って話になる。確かに科学は技術を促進させるものなんだけど、その前に人間が自然を知り、その力を借りてつつましく生きてるんだってことを感じるべき。

宇宙の研究やってるとそういう部分はやはりとても強く感じる。この小さい素粒子がみんなの体で、それがものすごい勢いで動きながらなんとか頑張って生きている。そうすると社会に対して考え方が変わる、そうすると新しい技術も生まれるし、使い方ももっと変わってくるはず。そういういい流れができるんじゃないかな。」

ILC、実際大丈夫?

藤井 「岩手にいるとILCについて勉強する機会があるんですが、その時点で「えっ!体って粒でできてたの!」みたいなとこにびっくりしたりして、面白いところがどんどんでてきて、それで興味を持つ人も岩手では多いと思うんですけど、そういうのってどんどん発信してほしいなっていうのもありますし、新しいものってやはり不安になる部分もある。岩手に見たこともないものができてビックバンを起こすなんて言うと不安になる人はやっぱり実際にいるんですが、そういう心配ってのはないんですよね?

山下 「よく言われますが、ビックバンやブラックホールは実際にできるんですけど一瞬で消えちゃうんですね。人間が作るものって意外と大したことないんです。リニアコライダーって人間が作るものとしては最大級にすごいものなんですけど、宇宙からはもっともっと高いエネルギーが山のように降り注いでいるんです。ビックバンやブラックホールが作れても、何も起こりません。残念ながら、人間はそんなに偉くないんですよ。」

竹内 「ハリウッド映画の見過ぎですね(笑)」

藤井 「とはいえ、やはり大震災や原発の影響でどうしても不安にはなってしまうようです。」

山下 「むしろ、どうしたら人間は安全に生きられるかを知らない限りは、永遠に安全にならない。人間は無知だから危ないことをする。本当に自然をもっとよく知る必要があるんです。なにが安全で何が危険なのかを自然から学び、それを謙虚に受け止めるってことをやらなきゃいけない。

このプロジェクトでいいと思ってるのは、チャレンジがとても多いこと。人類にとってもチャレンジだし、仕組み上もそう。いろんなチャレンジが含まれているから、とても魅力的。」

竹内 「とはいえ、チャレンジには慎重になる国民性がありますからね。新しいものにはまず待ったがかかる。オリンピックも招致する際に「金がかかる」「他にやるべきことがあるだろ」などの様々な反対があった。石原さんも話していたが、日本にはビックビジョンが足りてない。今目の前の状況に対応するのももちろん大事なんだけど、それだけだと近視眼的な対症療法しか打てない。先ほど押井さんも話してたように、触れないもの、見えないものに対して冷たい民族だなと感じます。」

最近わくわくしてますか?

竹内 「押井さんは攻殻機動隊で今でこそ当たり前になった「人がネットワークでつながれた世界」を描かれましたが、ネットがもたらしたこれまでと、ILCがもたらすこれからについてどうお考えですか?」

押井 「ネットの話も後でするんですけど、そもそも、ぼくらが子供のころは科学ってもっとわくわくするものだった。未来にあれもこれも思い描いて、そんな未来が来ると信じてたんですね。その時感じてた科学に対するわくわく感が最近全然感じられない。

ネットがその代用みたいになってしまったんですよ。自分がどこにいるかすら把握されて、昔ほどおおらかに生きることができない。言ってしまえば、人間の社会を良くするためって名目のもとすべてを管理されてる状態です。

でも、本来ネットってそういうものじゃなかったはず。人間に共同性を付与することが最大の良さだったのに、それが裏目に出てしまっているなと。」

山下 「じぶんはインターネットを最初に使った世代なんだけど、あの時は衝撃的だった。できないことができる。わくわく感がないって押井監督はおっしゃったが、やっぱりだんだん本当に新しいものがなくなってきた。」

押井 「知らなかったから新しく感じるんです。例えばILCとかはまさに新しいわけだけど、新しいものと古いものの区別がつきにくくなってしまった。情報が氾濫し、何が新しいかわからなくなってしまっているんです。人間にとって「思い込み」ってすごく重要なんだけど、その思い込みがしにくい世の中になってしまった。何でも調べられるから。」

竹内 「そう、最近私の生徒でも、何か聞くとすぐ調べるんですよ。そんで、例えば30年後どうなっていたいか言ってみろ、みたいな調べられないことを言うとすぐに答えに困ってしまう。

ぼくらが子供のころは、未来の社会は車は空飛んでるし海底トンネルで地球の裏側でも行けちゃうし、そんな想像をしてわくわくしていた。」

山下 「SFの世界って意外と現実に近くて、だいたいそっちの方向に向かうんだけど、素粒子って単に聞くとただの粒かと思うんだけど全然違う。常識を完全に覆してる。時間は人によって全然違うし、物の重さも違う。物質がエネルギーを生み出してエネルギーから物質が生まれそれが波のように広がって宇宙の果てまで続いてる。よくわかんないと思うけど(笑)、わくわくするでしょ?

いかがでしたでしょうか? 押井監督の思い、そしてILCの実情が伝わる内容だったかと思います!

後篇ではILCの未来、そして私たちができることというテーマでお話しいただきます。こちらからご覧ください!