ILC Supportersスペシャルトークショー「竹内宏彰」編

小田桐有香(学生インタビュアー 以下「小田桐」):では今日は竹内さんにお話を伺って行きたいと思っています。宜しくお願いします。

竹内宏彰氏(以下「竹内」):宜しくお願いします。

小田桐: なぜILCに興味を持ったのでしょうか?

竹内:
そもそもILCについて、以前は全く知らなかったんです。今回は押井守監督に連絡をいただきまして召集がかかったという感じです。押井さんとはもう20年くらい前からのお付き合いです。初めは押井さん個人のホームページを私の会社で作っていまして、押井さんが「アヴァロン」という映画を作った時に、その作品の全米特別試写会を企画して、一緒にハリウッドでの試写会を行った時からのお付き合いでした。

小田桐:お付き合いが長いんですね。

竹内:
そうですね。それ以降も押井さんとは何回かお会いしていました。私からのお願いで、国内の大手の通信会社さんの社内講演会に来て頂くことや、知人が台湾でCGアニメーションの会社の役員に就任した際に、台湾での特別講演もして頂いたこともありました。
これまでお世話になっている押井監督からの依頼は基本的に断れないので(笑)、「御意!」という感じでILCサポーターズに参加した次第です。
今回、押井監督や東大の山下先生からILCのことを伺いました。僕はもともと宇宙とか好きだったんですよ。だから自分もすごくワクワクしましたし、サポーターズに入ってから、ILCことを自分でも勉強して、「これは凄いプロジェクトだ」とようやく理解しました。

小田桐:なるほど。小さいころから物理とかに興味があると仰っていましたが、特に素粒子について興味を持ったのはいつですか?

竹内:私は物理というか宇宙に興味があって、小学校の時に家の屋根に布団持っていって夜通し屋根で寝てたんですよ。

小田桐:えー!星見るためにですか?

竹内:
そう!多分みなさんが、ドラえもんの未来の世界とかって言っていることが普通に語られていた時代なんですよね。ただ宇宙の神秘だけはわからなかった。「宇宙の果てってどうなっているの?」とか。特に私が最初に興味をもったのが“何光年”という概念です。「星が何百光年離れていると、その星の光が届くのに何百年かかります」ということ。「あの星が今はもう存在しないかもしれないんだよ」っていうのを理科の先生に教わって、「え!存在しないのになんで見えるんですか?」って聞いたら、「星が消える前の光が今やっと君の目のところに来ているんだよ」って説明されてもその概念が理解できなくて。
それから興味をもって星を見るようになり、ますます宇宙に興味をもってSFの映画やアニメーション、漫画を見るようになりました。

小田桐:確かにその概念を小学生が理解するのは難しいですよね。宇宙とか星の不思議について考えているうちに素粒子についても興味を持ったのでしょうか?

竹内:
いや、お恥ずかしながら私は文系なのでいまだに“素粒子”については全く分かっていません。
だから今回初めて、“素粒子”というのがどのようなものなのかほんの少し知ることができました。どちらかというと宇宙誕生の歴史やビックバン、ブラックホールなどは、SF映画とかアニメなんかで沢山知識を蓄えていたんです。それがようやく、「なるほどそれは“素粒子”と関係しているのか!」という様に繋がったような感じです。ただいま素粒子については絶賛勉強中です(笑。
素粒子について勉強するきっかけを今回のILCサポーターズは与えてくれたので、自分にとって幸運だと思います。この年でもまだまだ知らないことがいっぱいあるということは新鮮です。

小田桐:そういうことを若い人にどんどん広げていきたいですよね。

竹内:
だからこそ日本にILCの施設が建設されたら、まずそれを見に行きたいと思います。施設の中は当然科学者の人達しか入れないところもたくさんあると思いますが、分かりやすく説明するような体験施設などが併設されていると良いですよね。
地下にILC本体があるのだけど、地上でもILCで何を研究しているかを、VR映像やプロジェクションマッピングなどで体験できる施設があると楽しいですよね。私が子供の頃にテレビや漫画などで見たような未来のワクワクを現代の子供たちも体験出来たら良いと思います。そのようなエンターテイメント施設を作るのが私の映像プロデューサーとしての仕事になるのかな、と考えています。

小田桐:ILCサポーターズとして活動するときはそういったワクワクを子供たちに広めるような活動をしていきたいと考えていらっしゃるのですね。

竹内:
そうですね。
私はアニメーションを作って30年以上になるのだけど、大学を出たくらいの頃には、「オタク」というのは社会からのはみだしものとか、ネガティブなイメージが強くて、仕事で漫画やアニメなどの分野を仕事の生業にするっていうのは、社会的にはあまり賛成されなかった時代なんです。
「漫画を見ると頭が悪くなる」とか「アニメばかり見ていると社会性が欠落する」とかよく言われていた時代でした。私達はそんな中でも自分の好きなことを職業にしたいという想いがあって、ずっと頑張っていたんです。社会に認められる為に漫画やアニメというものがきちんと日本固有の文化として、世界的にも受け入れられているという事実を日本の皆さんにも理解して欲しかった。
何年も昔のことになるのですが、自分のプロデュースしたアニメを世界中に持って行き、海外での評価を改めて日本国内に伝えるようなこともしていました。現在の“クールジャパン”の先駆けみたいなものですね。漫画やアニメとかが現代の社会でも認められているというのはとても感慨深いし、今でも世界で評価されているという事実は嬉しいですね。
ただ、悲しいのは、最近の日本は文化やスポーツなどの一部が評価されているけれども、本来日本の強みであった、科学やモノづくりの分野では急激に力を失っているように感じます。

小田桐:そうですね。最近だと漫画やアニメなどが、日本を代表するものという感じになってきているイメージはありますね。

竹内:
ILCのように世界が注目するような設備が日本国内にあって、それを見た子供たちが「僕も研究者になろう!」という直接的な影響だけでは無く、科学を題材にしたようなアニメや漫画がもっとたくさん作られるようになるなど、これからの日本の文化や教育の環境づくりに漫画やアニメが貢献できれば良いと思います。

小田桐:今だと、昔よりもアニメを見ている層も増えたと思うので、アニメとか漫画で科学とかそういった話題を扱うことで、より幅広い層の人たちが興味を持ってくれるきっかけになりそうですよね。

竹内:
アニメや漫画のすごく良いところは、“分かりやすい”ということなんです。直感的に音とかビジュアルで伝えるでしょ?子供の頃は、アニメの世界で語られることがいつか実現するんじゃないかって毎週ワクワクして見ていました。
でもアニメや漫画で語られていたことが最近になってかなり実現化されているんですよね。
調べてみたのですが、科学者の人たちの中にもアニメや漫画などでイマジネーションされたものをヒントに研究し、実現させて来たという事実もあるみたいです。
コンテンツと科学技術というのは決して、離れているものではなくて、お互いに補完しあって、新しい時代やサービスを作るっていうのは現在までも実現されていることなんですね。
ILCの施設自体は宇宙の誕生を探るということなのですが、副産物としてどんな新しい技術や発見があるか、まだ誰もわからないということです。わからないからこそロマンがあるのかなと思います。

小田桐:ILCをつくることで新しい技術や発見がたくさんあると思うんですが、竹内さん的にはどんな技術や発見がされれば良いな、とか想像したことはありますか?

竹内:
やはり私は宇宙に興味があるから、「宇宙がどうやって始まったのか」が知りたいです。宇宙の構造がどうなっているのかも知りたい。様々な説があるけど、どの説が本当なのか、もしくは全く違っているのか、とにかく宇宙の真実を見たい、知りたいという気持ちが強いです。そしてその謎を解くカギに、ILCがなるのではないかと期待しています。

小田桐:ILCが日本にできることでどんなインパクトを世界中に与えると思いますか?

竹内:
世界に与えるインパクトは2つあると思っています。
知識とか科学は頭で分かっていても、それが現実味を帯びているものとして感じられるかということです。やはり具体的に施設があって、実際に研究をしているということが、周りに興味を持たせるし、沢山の人が自分と関わる具体的なきっかけを体験できるインパクト。
もう一つは、現在の日本はいろいろ元気がないような気がするんです。日本の良いところというのは、文化の多様性だと考えています。他の国から来た文化とか料理とかを取り入れて、自分たちの生活や嗜好にあったものに変えて、受け入れることができる多様性にとても長けている民族だと思います。日本にILCができることで、日本ならではの研究の方法や発想を世界に発信できる機会にもなるし、日本で最先端の研究をしていることは日本人にとっての誇りにもなるので、日本全体に元気を与えるインパクトです。

小田桐:日本の代表はアニメだけじゃないよ、こんなすごいこともやっているんだよ、まだまだ日本もいけるよというのを世界に発信できるいい機会になりますね。

竹内:
一番を持っているというのは、それだけ注目もされるし、誇りにもなれる。すべてが一番である必要はないけれど、何かで一番を追求しようとする、その意識が大事だと思います。
オリンピックでもメダルを取ることだけが大事というわけではないけれど、金メダルを目指すという姿勢が大事だと思っています。ILCが日本にできることで、私たちの次の世代の人たちに、一番を目指す姿勢が大切であることを伝えられるような気がしています。

小田桐:ILCが日本にできることで、私たちに様々な影響を与えてくれそうですね。
最後に、竹内さんのお仕事についてお話聞かせいただいてもよろしいですか?

竹内:
そもそも映像とかアニメが好きで、映画の仕事に就きたかったのですが、日本で映画を作るっていうのは私の大学生の時代は氷河期でものすごく難しい時代でした。映画の仕事をあきらめつつも、自分が好きだったアニメ制作の仕事に何とか就くことができました。
しかし私はアニメスタジオで絵などをかいていたわけではなく、プロデューサーとして働いていました。アニメプロデューサーには様々な仕事があるのですが、私の仕事は、製作資金を集めて作品を製作し、完成した作品を放送や配信して、また次の作品につなげるといった内容です。小さな頃からいつかハリウッドで仕事をしてみたい、という想いがあったのですが、2000年前位に念願叶って、ワーナーブラザーズのアメリカ本社と映画「マトリックス」のアニメ製作のお仕事をすることができました。
日本にもアニメ製作の仕事はたくさんありますが、私は日本の技術を使って海外の人と一緒にアニメを作るということを先駆けて行ってきました。1990年代当時、アニメはまだ手書き全盛の時代でしたが、海外では既に3DCGでアニメを制作する会社も出始めていました。そのような状況を海外で視察して、私も国内で3DCGスタジオを立上げて、松本大洋先生の漫画「鉄コン筋クリート」を3DCGで制作し劇場映画にしようということにも挑戦したりしました。
また、デジタルが進むと個人や少人数でもアニメが作れるという新たな可能性に注目し、新海誠監督のような個人クリエイターの方のデビュー作のプロデュースをお手伝いなどもさせていただきました。
常にアニメーションの次の時代を担うような、最先端の表現方法やビジネス手法などを模索して来ました。
最近は、昔ほどではないですが、ブロックチェーンシステムを利用したアニメ事業や中国との合作アニメなどをプロデュースしています。
現在も、日本のアニメは世界から注目を浴びています。これまでの経験のなかで、私はこの先もアニメや漫画などのコンテンツで世界の人たちに、ワクワクするものを届けたいと思っています。ILCをテーマにした新しいコンテンツも制作してみたいと思います。

小田桐:宇宙をテーマにした作品が増えると面白いですよね。

竹内:
ILCが実現できたら押井監督とも映像作品を制作したいと思っています。

小田桐:楽しみです!竹内さんは常に最前線で活動されているんですね。

竹内:
最前線という意識はないのですが、自分が面白いと思うことを追いかけて行くと必然的に、新しいことに挑戦しようということになります。

小田桐:新しい所へ一歩を踏み出すことって「怖い」と感じる時はないんですか?

竹内:
怖いです。ですが、怖いということよりも先に、誰もやったことがない、まだ知らないようなことがある、という興味が勝っていると思います。
何かを始める時って「リスクが大きい、失敗したらどうしよう」とか「どれくらいの恩恵を得られる」とか、「やりたいかやりたくないか」という気持ち以前に、リスクばかり考えてしまいがちですよね、
私も最初は自分の周りに、新しいアニメを作る人なんていなかったし、海外とアニメを製作することには、前例があまり無いことから周囲からの反対も多かったです。対処法として、まず初めに仲間を作りました。一人では怖いけれど、同じ志を持った仲間とともに、怖さを解消してきました。その為に日本人だけでなく、様々な国の人達とアニメスタジオを作ったりすることで不可能を実現できたと思います。

小田桐:そうやって仲間の輪を広げて行くのは前から得意だったんですか?

竹内:
人と話すことは、昔は得意じゃなかったです。人に伝える表現方法もスキルアップしていかなくてはいけないけれど、嫌いなことは続かない。やりたことをやるための仲間を集める為のプレゼンテーションだから、自分のだめなところをどんどん見つけて、トライ&エラーで頑張りました。
ぜひ、皆さんも機会があったら、一人ではなく仲間を集めるところから始めてみてください。本当に志が高い挑戦や、面白いことであれば、人は必ず集まって来ますから。

小田桐:なるほど。やりたいことがどれだけ楽しいかを人に伝える技術を身に着けるのは大変そうですが頑張ります!本日は本当にありがとうございました!


いかがでしたでしょうか?

竹内宏彰氏からのビデオメッセージはこちらですので、ぜひご覧ください!